ITIL(Information Technology Infrastructure Library)におけるリリース管理は、サービスの変更や新機能の導入をスムーズかつリスクを最小限に抑えながら実行するためのプロセスです。
リリース管理の目的は、開発環境での構築が完了したソフトウェアやシステムを本番環境へ円滑に導入し、サービスの安定性と品質を維持することにあります。
リリース計画、テスト、リリースの実行、評価といった手順があり、それぞれが効果的なリリースを支える重要な役割を果たします。
本記事ではITILにおけるリリース管理の目的と手順を解説します。
本番環境への変更を管理する
今回はITILのサービスサポートにおける6つの運用プロセスの6つ目、「リリース管理」をご紹介します。
先にも「ITILにおける変更管理とは?メリットとデメリット、変更管理プロセスを解説」の記事でも述べましたが、変更を実務環境に実装することを「リリース」と言います。リリース管理に関しては組織によって範囲が曖昧で、運用法が大きく異なるケースもありますが、根幹となる目的は「ITサービスの品質を一定に保つこと」にあります。具体的には、実務環境、本番環境に加えたい変更を安全・無事に遂行できるようにすることが重要です。
リリース管理と変更管理は共に変更を扱うので混同されがちなのですが、実は変更する対象が異なります。
変更管理との違いを理解
リリース管理と変更管理は、ITサービスの変更を扱う点で似ていますが、その対象範囲が異なります。変更管理が全ての変更を対象とするのに対し、リリース管理は本番環境への移行を前提とした変更のみを扱います。
例えるなら、変更管理は料理のレシピ開発全般を担当し、リリース管理はお客様に提供する新メニューの準備に特化しているようなものです。
リリース管理では、組織全体で遵守すべき「リリース管理ポリシー」を定めます。これは、広範囲な役割をカバーするリリース管理のルールを統一し、システム利用者に管理方針を明確に示すために重要です。
変更管理はITサービスに影響を与える可能性があるすべての変更を対象としていますが、リリース管理は「本番環境への移行」を前提とした変更を対象としています。言い換えれば変更の必要性の段階から考えるのが変更管理、どのように本番環境への変更を行うかを考えるのがリリース管理なのです。もちろん、変更管理とリリース管理は綿密に連携することが求められます。
管理ポリシーを組織で統一
リリース管理は大きく分けると「リリース管理プロセス」と「展開管理プロセス」の2つのプロセスになります。
リリース管理プロセスは、主としてどのようなリリース=本番環境への変更を行っていくかについて管理することです。システムにどのように手を加えていくか、どのように目標設定やその見直しを行うのかなどを考えていくことになります。
展開管理プロセスは実際に本番環境に対して変更を加える時、準備、実行、見直しをどのように行うかについて管理します。具体的には変更の反映手順をどのように設定するか、変更作業が失敗した場合のバックアップをどうするか、どのような情報更新(構成管理)を行うかなどを考える作業になります。
なお、リリース管理では「リリース管理ポリシー」と呼ばれる方針を定めることになります。これは組織全体で例外なく遵守されるべき重要なものです。なぜリリース管理ポリシーが必要なのかというと、2つ理由があります。まず第1に、リリース管理は幅広い役割をカバーしているため。それぞれの分野でルールを設定していると様々な不具合が生じるので、組織内でルールを統一しておく必要があります。第2に、システム利用者が最大の関心を寄せるのが「どのような方針に基づいてリリースを行うのか」であること。例えば変更の際にシャットダウンなどを行うとシステム利用者に直接的な影響が出ますので、システム利用者には管理方針を明らかにしておく必要があるのです。
リリース管理プロセスの詳細
要求の確認と承認を行う
リリース管理ツールの重要性は、ソフトウェア開発の複雑化と高速化に伴い、ますます高まっています。なぜなら、これらのツールは、リリースプロセスの効率化と品質向上に不可欠だからです。例えば、大規模なeコマースサイトの更新を想像してみましょう。多数の機能変更やバグ修正を含む新バージョンをリリースする際、手作業での管理は膨大な時間と労力を要し、ミスのリスクも高くなります。
リリース管理ツールは、このような課題を解決します。変更内容の追跡、テスト結果の管理、承認プロセスの自動化など、リリースに関わる全ての作業を一元管理することで、プロセスの透明性と効率性を大幅に向上させます。さらに、チーム間のコミュニケーションを促進し、リリースの成功率を高めることができるのです。
計画をたてる
リリース管理ツールの選定は、プロジェクトの成功を左右する重要な決断です。選定基準として、まず「スケーラビリティ」が挙げられます。プロジェクトの規模拡大に柔軟に対応できるツールを選ぶことで、長期的な運用コストを抑えられます。次に「インテグレーション」の容易さも重要です。既存のシステムやツールとの連携がスムーズなほど、導入後の混乱を最小限に抑えられるからです。
さらに、「使いやすさ」と「カスタマイズ性」のバランスも考慮すべきポイントです。直感的なUIで操作が簡単なツールは、チーム全体の生産性向上につながります。一方で、自社の独自プロセスに合わせて調整できる柔軟性も必要です。
最後に、「セキュリティ機能」も忘れてはいけません。リリース管理には機密情報が含まれることも多いため、堅牢なセキュリティ機能を備えたツールを選択することが重要です。
設計と構築
リリース管理ツールの選定が済んだら、次は具体的な設計と構築に移ります。代表的なツールとしては、Jenkins、GitLab、Jiraなどが挙げられます。Jenkinsは継続的インテグレーション/デリバリー(CI/CD)に強みを持ち、自動化されたビルドとテストが可能です。GitLabはソースコード管理から配布まで一貫して行えるため、開発チームとの連携がスムーズです。Jiraはチケット管理に優れ、タスクの進捗や問題点を可視化しやすいのが特徴です。
これらのツールを活用することで、リリースプロセスの効率化と品質向上が図れます。例えば、コード変更の自動テストや承認フローの設定により、人為的ミスを減らし、リリースの信頼性を高められます。また、リリース履歴の管理や監査証跡の記録も容易になり、コンプライアンス対応にも役立ちます。
テストと修正
テストと修正フェーズは、リリース管理プロセスの要です。ここでは、開発されたソフトウェアの品質を確保し、潜在的な問題を早期に発見・修正します。例えば、大規模なECサイトの新機能をリリースする場合、まず機能テストを行い、次に負荷テストで高トラフィック時の挙動を確認します。問題が見つかれば即座に修正し、再テストを実施します。
このサイクルを繰り返すことで、リリース後のトラブルリスクを最小限に抑えられます。また、自動化テストツールを活用することで、テストの効率と精度を向上させることができます。
テストと修正の過程で得られた知見は、次回のリリースに活かせる貴重な資産となります。これらの情報を適切に記録・共有することで、組織全体のリリース管理能力が向上していくのです。
最終確認の実施
最終確認は、リリース前の重要な関門です。この段階では、全てのテストが完了し、必要な修正が施されていることを確認します。例えば、新しい決済システムをリリースする場合、セキュリティチェック、パフォーマンステスト、ユーザビリティテストの結果を精査します。また、関係部署からの承認も得ておく必要があります。
この過程で、リリース管理表やチェックリストを活用すると、漏れのない確認が可能になります。さらに、本番環境に近い状態でのリハーサルを行うことで、予期せぬ問題の発見にも繋がります。
最終確認で問題が見つかった場合は、リリースを延期する勇気も必要です。なぜなら、不完全な状態でのリリースは、ユーザーの信頼を損なう可能性があるからです。慎重かつ確実な確認が、成功するリリースの鍵となるのです。
展開
展開フェーズでは、最終確認を経たリリース内容を本番環境に適用します。このプロセスは慎重に行う必要があり、多くの場合、夜間や週末など、システムの利用が少ない時間帯に実施されます。例えば、大規模なECサイトの新機能リリースでは、事前に詳細な展開計画を立て、各ステップでのチェックポイントを設定します。
展開中は、リアルタイムモニタリングを行い、問題が発生した場合に即座に対応できる体制を整えます。また、万が一の際のロールバック手順も準備しておくことが重要です。
展開後は、システムの安定性を確認し、ユーザーからのフィードバックを収集します。これらの情報は、次回のリリース改善に活かされます。リリース管理ツールを活用することで、この一連のプロセスを効率的に管理し、トレーサビリティを確保できます。
ITILのリリース管理プロセスの構成
ITILのリリース管理プロセスは、本番環境への変更を安全かつ効率的に実施するための重要な構成要素です。まず、リリース管理のプロセスでは、変更内容の設定や目標の見直しを行います。これは、新機能の追加やバグ修正など、システムの変更を計画的に管理する過程です。
一方、展開実施後との管理プロセスでは、実際の変更実施に焦点を当てます。準備から実行、そして事後の評価まで、一連の流れを管理します。これは、まるで料理のレシピを作り、実際に調理し、味の確認をするようなものです。
さらに、組織全体で一貫性を保つために「リリース管理ポリシー」の策定が不可欠です。これにより、システム利用者にとってリリースの方針が明確になり、透明性が確保されます。
変更管理とリリース管理の関係
変更管理とリリース管理は、ITサービスの安定性と品質向上を目指す二つの重要な概念です。変更管理は、システムに影響を与える可能性のあるすべての変更を対象とし、リスクの最小化を図ります。一方、リリース管理は本番環境への移行を前提とした変更に焦点を当て、サービス品質の維持を目的としています。
両者の関係は、料理の準備と提供に例えられます。変更管理は食材の選択や調理方法の決定など、準備全般を担当します。リリース管理は、完成した料理を適切なタイミングでお客様に提供する役割を果たします。
変更管理で承認された変更要求のみがリリース管理に引き継がれ、本番環境への実装が行われます。この連携により、ITサービスの安定稼働と継続的な改善が実現されるのです。
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